身体表現性障害は、痛みや吐き気、しびれなどの自覚的な何らかの身体症状があり、日常生活が妨げられており、自分でその症状をコントロールできないと考えている病態を指しています。
ブリケ症候群、ヒステリー、心因性疼痛と呼ばれることもあり、おそらく不安に結びついているものとされています。
異常が示唆されるような身体の問題を訴え検査を行うものの、異常は見あたらないという結果が出るものや、自分の外見に欠陥があると思いこむもの、自分が深刻な病気にかかっているのではとこだわってしまうものなど、さまざまな精神疾患が含まれます。
症 状
この障害には、激しい苦痛や欠陥を引き起こすほどの痛みの訴えが中心で、そのために仕事ができなくなったり、鎮痛剤や精神安定剤に依存したりすることもある「疼痛性障害」、生理的には正常であるにもかかわらず、腕や脚の麻痺や発作や筋肉の協調運動の障害、皮膚感覚の違和感、痛みに対する感覚欠如などを体験する「転換性障害」、さまざまな身体症状が数年間にわたって持続している「身体化障害」、自分が深刻な疾患に罹患しているのではないかという恐怖感や考えにとらわれ、医学的に問題がないにもかかわらず、いつまでも疾患にこだわってしまう「心気症(心気障害)」、想像上のまたは誇張された身体的外見の欠陥についてとらわれてしまう「身体醜形障害」があります。
DSM-W-TRでは、「一般身体疾患を示唆する身体症状で、それが一般身体疾患、物質の直接的な作用、または他の精神疾患によって完全には説明されないもの」と定義され、ICD-10では、「所見は陰性が続き症状にはいかなる診断基盤でもないという医師の保証にもかかわらず、医学的探索を執拗に要求するとともに繰り返し身体症状を訴えるものである」と、医師―患者関係にまで言及してかなり詳細な特徴が定義されている。
疫 学
疼痛性障害は、女性に多く、その症状の経過の背景には心理社会的な問題が関わっていることがあると言われています。転換性障害は、通常、思春期から成人期初期にかけて発症し、その確率は1%未満で、男性よりも女性に多く見られます。治療の必要がないような程度のものも含めれば、有病率は高いと言われています。身体化障害は、30歳以前にさまざまな身体症状が起こり、数年以上持続しています。その確率は0.5%未満で、成人期初期に通常発症し、男性よりも女性に多く見られます。
心気症(心気障害)は、成人期前期に発症するのが典型であり、男性と女性のどちらにも生じるとわかっています。慢性の経過をたどる場合があることや気分障害や不安障害と合併することもあると言われています。身体醜形障害は、女性に生じることが大半であり、典型的には青年期後期に発症します。外見の中でも、たとえば女性は、肌や臀部、胸部、足などに固執しがちであったり、男性は、身長や性器、体毛などについての思い込みに関するとらわれが多いとされており、主観的な問題や好みが重要な役割を果たしています。
また、気分障害や社会不安障害、パーソナリティ障害と合併することもあると言われています。
原 因
もともと、身体感覚に敏感で悲観的にとらえやすい繊細な人がなりやすいほか、心身の過労(たとえば親の介護疲れや過度の残業など)や身辺の環境変化(たとえば職場異動や引越、近親者との死別など)がストレスになっていることを認識しにくく、言語化できない人の場合に身体症状として表れることがあると言われています。
たとえば、転換性障害の場合、精神分析理論では、症状の背景には、無意識の過程が働いていると考えています。幼少期からの強い抑圧が、精神エネルギーを無感覚症や麻痺などに変換したり転換させてしまうと仮定されています。他にも、行動主義の理論では、症状から得られる疾病利得や強化が背景にあり、症状の存在から他の人から注目を浴びたり、現在の不快な生活状況やストレスを軽減できたり回避できてしまうような肯定的な結果が得られていることも症状の維持につながっている可能性も指摘されています。
治 療
現在では、柔軟に支持的に助言するような心理療法などの精神科的治療や薬物療法、職場や家庭などの環境調整が考えられており、薬物療法以外の基本的な対応を学ぶことも重要だと言われています。心理療法では、その方がどんな問題を抱えているのか、不安感や抑うつ感に苦しんでいることにも留意しながら、丁寧に身体的健康に関する気がかりをうかがい、ストレスの原因となっている環境調整や、ストレス対処法を身につけていくことを目指します。
他に、心身相関についての気づきを促すような心理教育やリラクセーション法の教示、症状改善に向けてより多くのメリットが得られるような計画の立案、過去に解決されなかった体験への直面化から葛藤のカタルシスを得て症状が楽になるような精神分析理論に基づくアプローチ、再発防止のために悲観的な思考の再構成や症状への注目のしやすさに気づきを促す認知行動療法などがあります。また、精神疾患を合併している場合には、薬物療法(抗不安薬や睡眠薬など)を行うこともあり、有用だと言われています。
基本的な治療対応法には、
社会不安の研究成果
- たとえ、明らかな身体疾患や精神疾患が発見されなかったとしても、その人にとって症状が現実のものであることに理解を示し、自尊心に配慮する
- 症状を完全に除去しようとするよりも、症状への対処法をより良いものに改善し、耐性を高める
- 定期的な受診日を設定し、具合の悪いときに受診するという形を避けるようにする
- 時に家族の協力も得ながら生活上の問題の解決を支援し、現実生活への適応を促す
- 過剰な薬物の処方や検査を避ける
などがあります。
診断基準
DSM-W-TR | ICD-10 |
コード番号 300.8,300.11,300.7, | コード番号 F45 |
身体表現性障害(Somatoform disorders) | 身体表現性障害(Somatoform disorders) 診察や検査所見は繰り返し陰性で症状には身体的基盤はないという医師の保証にもかかわらず、さらなる医学的検索を執拗に要求するとともに、繰り返し身体症状を訴えるもの。 <鑑別診断>通常、心気妄想との鑑別は、患者をよく知ることによってできる。信念が長く続き、根拠がないようにみえても、話し合い、保証、別の検査や検索の実施によって、確信の強さは通常短期間、ある程度は影響を受ける。そのうえ、不快でおびやかされる身体感覚の存在は、身体疾患に違いないという確信が持続する。 <除外>解離性障害、抜毛、舌たらず、舌もつれ、爪かみ、他に分類される障害あるいは疾患と関連した心理的あるいは行動的要因、性機能不全、器質性の障害あるいは疾患によらないもの、指しゃぶり、トゥレット症候群、抜毛症 |
身体化障害 Somatoform disorders | 身体化障害 Somatoform disorders |
| 確定診断のためには、以下のすべてが必要である。
診断においては、以下の障害との鑑別が重要 ボディショックの容量
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【鑑別不能型(分類困難な)身体表現性障害】 Undifferentiated somatoform disorder | |
身体的愁訴が多発性で変化し持続的であるが、身体化障害の完全で典型的な臨床像をみたさない。たとえば、強烈で劇的な訴え方を欠き、訴えが比較的少なく、あるいは社会や家族の一員としての機能に支障がまったくないということがある。心理的原因を仮定する根拠がある場合もない場合もあるが、精神科的診断の根拠となる症状には身体的基礎があってはならない。 もし身体的障害が基礎にある明らかな可能性が依然として存在するか、あるいはもし診断的なコード化の時点で精神科的評価が完全でないならば、ICD-9の適切な他のカテゴリーを使用すべきである。鑑別不能な心身性障害を含める。 | |
【鑑別不能型身体表現性障害】 Undifferentiated Somatoform Disorder | 【他の身体表現性障害】 Other somatoform disorders |
| 訴えられる愁訴は自律神経系を介さず、特定の系統や身体部位に限られている。このことは、身体化障害と鑑別不能型身体表現性障害にみられる、症状や苦悩の原因についての多様でしばしば変化する愁訴とは対照的である。 組織の損傷は認められない。身体化障害に起因せず、ストレスの多い出来事や問題と時期的に密接に関連し、あるいは結果的に個人的であれ医療的であれ、患者への注意が著しく増大するいかなる感覚障害もここに分類すべきである。 一般的な例:膨張した感覚、皮膚を何かが動く感覚、異常知覚(うずきおよび/またはしびれ) 西部のペンシルバニア州の慢性疼痛の治療
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【転換性障害】 Conversion Disorder | 【身体表現性自律神経機能不全】 Somatoform autonomic dysfunction |
運動性の症状または欠陥を伴うもの(協調運動または平衡の障害、麻痺または部分的脱力、嚥下困難または"喉に塊がある感じ"、失声、および尿閉) 感覚性の症状または欠陥を伴うもの(触覚または痛覚の消失、複視、盲、聾、および幻覚) 発作またはけいれんを伴うもの(自発運動性または感覚性要素を伴った発作またはけいれんが含まれる) 混合性症状を示すもの(2つ以上のカテゴリーの症状が明らかな場合) | 患者の示す症状は、あたかもそれらが大部分あるいは完全に自律神経の支配とコントロール下にある系統や器官、すなわち心血管系、消化器系、呼吸器系の身体疾患によるかのようである(生殖器泌尿器系のある面もまたここに含まれる)。 最も一般的で目立つ例は心血管系(「心臓神経症」)、呼吸器系(心因性過呼吸と吃逆)、消化器系(「胃神経症」と「神経性下痢」)が障害される。症状には2つの型があり、そのどちらも関与する器官あるいは系統の身体疾患を示すものではない。
これらの疾患では、鼓張、過呼吸のような生理学的機能のわずかな障害が存在することもあるが、それ自体で当該の器官や系統の本質的な生理学的機能を乱すことはない。特徴的な臨床像を形成するのは、明らかな自律神経の関与、付加的で非特異的な主観的愁訴、そして特殊な器官あるいは系統が疾患の原因として執拗に言及されることである。 確定診断のためには、以下のすべてが必要である。
診断においては、以下の障害との鑑別が重要
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【疼痛性障害】 Pain Disorder | 【持続性身体表現性疼痛障害】 Persistent somatoform pain disorder |
急性 持続期間が6カ月未満 慢性 持続期間が6カ月以上 心理的要因と関連した疼痛性障害、心理的要因と一般的身体疾患の両方に関連した疼痛性障害、一般的身体疾患と関連した疼痛性障害 | 主な愁訴は、頑固で激しく苦しい痛みであり、それは生理的過程や身体的障害によっては完全には説明できない。痛みは、主要な原因として影響を及ぼしていると十分に結論できる情緒的葛藤や心理的社会的問題に関連して生じる。結果的には、個人的であれ、医療的なものであれ、援助を受けたり注意を引いたりすることが著明に増える。 うつ病性障害や統合失調症の経過中に生じる心因性起源と推定できる痛みはここに含まれない。精神−生理学的メカニズムが知られている、推論できるものに起因するものの、なお心因性の原因も関与していると考えられている痛みは、F54「他に分類される障害あるいは疾患に関連した心理的あるいは行動的要因」にICD-10の他のコードを加えてコードすべきである。精神痛、心因性背部痛あるいは頭痛、身体表現性疼痛障害が含まれる。 診断においては、以下の障害との鑑別が重要 最もよく出会う問題はこの障害を、器質的に引き起こされた痛みの演技的な修飾から鑑別することである。 まだ明確な身体的診断にいたっていない患者は、おそれたり憤慨したりしやすく、結果として注意を引こうとする行動をとることがある。さまざまな疼痛は身体化障害ではふつうであるが、他の愁訴より持続的ではないか、あるいは優勢ではない。
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【心気症】 Hypochondriasis | 【心気障害】 hypochondriacal disorder |
洞察に乏しいもの(重大な病気にかかっているという心配が過剰である。または不合理であるということを、現在のエピソードのほとんどの期間、その人が認識していない場合 | 本質的な病像は、1つ以上の重篤で進行性の身体疾患に罹患している可能性への頑固なとらわれである。患者は執拗に身体的愁訴、あるいは彼らの身体的外見へのとらわれを示す。 正常かふつうの感覚や外見が、患者にとっては異常で苦悩を与えるものと解釈されることがしばしばであり、通常身体の1つや2つの器官あるいは器官系統にのみ注意が集中する。体の機能と形態に関する固定化した妄想が存在してはならない。1つ以上の疾患の存在への恐怖(疾患恐怖)はここに分類すべきである。また、身体醜形障害、醜形恐怖、心気神経症、心気症もこの障害に含まれる。 確定診断のためには、以下のすべてが必要である。
診断においては、以下の障害との鑑別が重要
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【身体醜形障害】 Body Dysmorphic Disorder | |
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【特定不能の身体表現性障害】 Somatoform Disorder Not Otherwise Specified | 【身体表現性障害,特定不能のもの】 Somatoform disorder,unspecified |
このカテゴリーは、どの特定の身体表現性障害の基準も満たさない身体表現性の症状をもつ障害を含む。その例をあげると、
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